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「1本の杖が2つの宿営に」 [創世記連講48]

聖 書:創世記32 章1〜21 節

これまで旅の要所要所で現れなさり、ヤコブに必要な約束や励ましを与えてこ

られ神さまが、再び御使いたちをヤコブに送りなさいます。御使いたちとの遭

遇を経験してヤコブは「ここは神の陣営だ(神さまの宿営だ)」と言い表し、

その場所に「マナナイム(二つの宿営)」という地名をつけます。

兄エサウとの再会が第一のハードルですが、ヤコブがそれを恐れている

ことは火を見るより明らかです。周到な準備を重ねて再会に備えます。彼は自

分の陣営、宿営を二つに分割します。「マハナイム」が二つの宿営という意味

を持っていることは、一つここに繋がります。こうしておけば一つの宿営が攻撃

を受けても、もう一つの方は逃げられると考えました。聖書は彼の様子をあり

のままに伝えます。

ただ、それで終わらないのがヤコブです。彼は逃げ道を思いついてある

程度手筈を整えたときに、神さまに祈るのです。これもまたヤコブらしい姿で

す。彼の祈りに耳を傾けましょう。恐れと不安に迫られた、1 人の神を信頼する

人物の祈りです。

1 神を弁えるヤコブ

ヤコブはこれまでの神さまの恵みを振り返り、神さまのご真実を振り返って祈

りの声を上げます。それからヤコブはこの神さまが今、私に語り掛け、私と約

束を交わし、私を導き、私を顧みなさる方だと告白して呼びかけているのです。

これまで私に語り掛けてくださった主、今神の宿営を見せてくださった主を仰

いで祈りを捧げるのです。

2 自らを弁えるヤコブ

神さまに呼び掛けるヤコブは、同時に自分自身を見つめ直します。10 節半ば、

「すべての恵みとまことを受けるに値しない者です。」これがこの祈りの急所。

ヤコブの実績は確かなものです。けれどもヤコブはその成功の一切を自分の力

量や知恵に依るものだとは考えていませんでした。すべては神さまが与えてく

ださった。これが彼の「成功」の理解です。彼が手にしたすべての富と成功は、

勤勉や忠実の報酬だとは考えていません。すべては「神さまの恵みとまこと」

だと彼は理解しています。その人に受ける資格や価値が十分にあるので与えら

れる報酬でなく、その人に受ける資格や価値がどれだけあるかとは関わりなく、

与える側の意図や思いで与えられる恵みです。この物語はそういうヤコブを私

たちに突きつけるようにして見せるのです。

3 恵みを弁えるヤコブ

ヤコブはこう続けます。「私は一本の杖しか持たないで、このヨルダン

川を渡りましたが、今は、二つの宿営を持つまでになりました。」これまでの

生涯を一言で言い当てた聖言です。一本の杖しか持たなかった私が、川を渡っ

て、今は二つの宿営「マハナイム」を持つまでになりました。でも、このこと

ばは彼のサクセス・ストーリーを誇ることばではありません。私は杖一本しか

持っていなかったときも恵みを受ける資格のない男でした。大家族を与えられ、

富も増し加え、二つの宿営を持つようになった今も私は相変わらず、あなたか

ら恵みを頂く権利のない、価値のない者のままです。私たちが如何に貧しくて

も、富んでいても、その間のどのような状況にあるとしても、私たちには神さ

まの祝福や恵みを受けるに値しない存在だということに気付くこと。ヤコブは

その自覚に辿り着いたのです。

私たちが救われてクリスチャンになったとき、ある面この絶望に辿り着

いたのではなかったでしょうか。あのとき、私たちは自分がこれだけ悪どい人

間だから、赦されてきれいにして頂きたい、と祈りました。でもそのときの祈

りは神さまとの取引ではなかったはずです。私の罪深さ、私の汚れ、私の闇を

直視すれば、とてもではないけれども、愛に溢れた神さまに、正義ときよさの

輝く神さまに到底近づくことなど許される存在ではない。自分には赦しを得る

資格はない、赦されて神の子とされるに値しない者です。そこに辿り着いたの

で、救われたのです。

それですから二つの宿営を構えるようになってもヤコブには奢る理由

が見当たらないのです。逆に杖が一本だけになっても腐らないのです。全てを

主がお取りになったのだから。貧困の只中でも富に囲まれていても大切なのは、

価値のない私に神さまがともにいてくださり、関わってくださり、慈しみ、ま

ことを示しておられる事実です。

4 祈りを弁えるヤコブ

ヤコブはようやく祈りの本題に差し掛かります。彼は神さまに救い出してくだ

さい、と懇願しています。でもこの祈りは虚しい、当てのない祈りではありま

せん。その祈りは惜しみなく恵みを注がれる方に向けられているからです。

祈りを閉じて彼は早速手筈を整えます。祈りを注ぎだしたならば、これ

から迎える日々の現実に備えるように、このエピソードは語り掛けるのです。

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